ちょっとした用事があって、サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」を勉強中。
今日の話題は、組曲の12曲目「化石」。
この「化石」、過去の作品の引用のオンパレード。
動物が出てくる曲なのに、動物が亡くなったあとの化石を描写とは、なんだかブラックユーモアで、
ひょっとしたら、勝手に引用されたことを引用元の作者が知ってしまったら、トラブルに巻き込まれないかなあと、現在のご時世なりに心配になってしまう事案。
そこで、ふと考えたのでした。
私自身が法律に詳しいことはまるでないのですが、
ちょっとばかり考察してみました。
法律に定められている作者が亡くなってからの保護期間は、
作曲されていた当時フランスで制定されていた著作権法の保護期間である50年を適用とします。
それでは、サン=サーンスが「化石」を作曲する際に引用された音楽を調べます。
(時々、引用元の音楽を貼り付けておきます。)
・サン=サーンス/交響詩「死の舞踏」から「骸骨の踊り」の旋律
→作曲者自身の音楽を作曲者自らが引用していますから、
著作権侵害には当たりません。
・フランス民謡「良いタバコを持っている」
→作曲された時期が18世紀とされている民謡なので、著作権保護期間に入りません。
よって、著作権侵害には当たりません。
・「きらきら星」
→これも18世紀から伝わる古いシャンソン。
よって、これも著作権侵害には当たりません。
ちなみに、モーツァルトもこの曲を主題に変奏曲を作曲していますが、
むしろ、そちらの方が著作権違反にならないか心配してしまう私。
・フランス民謡「月の光に」
→作曲者が17世紀に活躍したリュリ(1632-1687)という説もあり、
18世紀からの古い民謡という説もありますが、
いずれにしても、著作権侵害には当たりません。
・フランス民謡「シリアに旅立ちながら」
→1807年ごろの作曲、当時のフランス第2帝国の非公式の国歌だったとか。
サン=サーンスが「動物の謝肉祭」を作曲したのが1886年ですので、
これも著作権侵害には当たりません。
・ロッシーニ/歌劇『セビリアの理髪師』よりロジーナのアリア「今の歌声は」
→さあ、これが問題です。
ロッシーニが亡くなったのは1868年。
著作者の没後保護期間の50年以内に入りますから、
この段階で、著作権違反となる可能性があります。
引用された部分はたったの4小節。
よく「4小節以内は著作権侵害に当たらない」みたいな俗説を聞きますが、
これは事実に反する俗説。
そうすると、このままだとサン=サーンスは著作権法違反となり、逮捕されるのか?
さすがに、逮捕されて刑が確定した際の罰則までは調べなかった私ですが、ここで重要なことを指摘しておきましょう。
サン=サーンスは、この一連の組曲を自身が亡くなるまでは出版しなかった、公の演奏を禁じたということ。
初演も私的に非公開で行われたということで、
このことから、実はサン=サーンス自身も
「これが世に出て広く知られてしまってはマズイ!」と思っていたのではないでしょうか?
翌年の1922年には公に演奏されています。
ロッシーニの保護期間からも外れていますので、この時点での演奏や出版は法に抵触していません。
生前に出版も演奏も禁じていたのですから、彼が存命中に著作権侵害か否かを知る術がない状態。
ということで、結論は「サン=サーンスは著作権違反とはならない」ということでよろしいでしょうか?
それにしても、人騒がせな人です。